灯台放送受信用プリセレクターの製作

JA5NAF  2012.7.31



1 はじめに
灯台放送とは、海上保安庁が全国29箇所の灯台から、24時間気象情報を放送しているもので、
周波数1670.5KHz、電波形式H3E(1669KHzUSBにすると聞きやすい)、出力50W〜10W。
信号が微弱なうえ、ノイズが多い周波数帯であるため、良好に受信するためには工夫が必要。

@すぐ下に強力な中波ラジオ放送局がひしめいているので、その影響をできるだけ減らす。
A目的信号を選び出して増幅する。

以上@Aを目的とし、灯台放送を聞くことに特化したプリセレクターを製作した。




2 回路の説明
バンドパスフィルター(BPF)と高周波増幅(プリアンプ)の2つの部分から構成される。
本機のBPFは、2つの並列共振器による複同調回路である。
コイルは、Qの高いものを使った方が選択度のシャープなBPFになる。
本機ではやや大型のトロイダルコアT106-2を使用。アミドンのQカーブの資料によると、1.7MHzでQ=340程度。

カプリングコンデンサーは、10pFを使用したが、大きくすると選択度がブロードとなり、ラジオ放送の影響を受けやすくなる。
また、小さくすると選択度は上がるがロスが増える。
3pF〜50pFあたりで、ロスが少なく、選択度が上がるよう調整する。

プリアンプは、2SK439ソース接地による1段増幅。
ゲート側の同調回路は、T68-2を使用。1.7MHzでQ=230程度。
ドレイン側は、FB801-43にトリファイラ巻のトランスを負荷とし、9:1のインピーダンス変換のみを行っている。
多信号による混変調等が心配だったが、BPFが効いているので問題なかった。
部品数が少ないシンプルな回路、低NF、高利得のメリットを活かせる。




3 製作
6cm×9cmのプリント生基板の上に、生基板を小さく切ったチップを瞬間接着剤で貼り付けランド(島)を作り、そのランドを使って部品を半田付けしていく。自分用に1台作るだけなら、エッチングしてプリント基板を作るより楽で、生基板が全面アースとなって動作が安定する。慣れると部品数の多いものでも作れるようになる。

トロイダルコアは、なるべく太い線で丁寧に巻く。浮遊容量を避けるため、基板から少し浮かせて取り付ける。4点で支持すると結構自立する。
DL5SWBのサイトにmini Ring Core Calculatorというフリーソフトがある。
インダクタンス、巻数、使用可能な最大線経(太さ)、必要な線の長さなどが計算できるので便利。

また、トロイダルコアは国内で買うより、アメリカのKits and Parts dot Com という販売店からインターネットで購入すると安い。
よく使うT37-2やT37-6だと、100個14ドルで、送料9.18ドルを含めても、1個18.5円程度。
このくらいの安さになると、トロイダルコアも消耗品の感覚になり、値段を気にせず使える。
ただし、紹介はするが、お勧めするものではない。利用されるなら自己責任で。

トリマーコンデンサーは、ムラタ製のシールドタイプのセラミックトリマー。色によって最大容量が異なり、120pFは黒色。
とがっている側をアース、平らになっている側をホットに接続する。これを逆にすると調整ができない。



基板が出来上がったら、ケースに組み込む。
むき出しの基板のままでは使い勝手が悪く、動作が不安定で、ショートなどのアクシデントも起きやすい。

タカチ製のHD11-9-4を使った。
アルミダイキャストケースはシールド効果が高いため、ノイズなど周りの影響を受けにくくなることを期待した。
電源スイッチとLEDランプを取り付けた。




4 調整
SGがあれば、1670KHzで利得が最大になるよう、大まかに調整する。
このとき、3つのトリマーを回転させて利得最大になる感触を憶えておく。
ただし、このままの状態でアンテナをつなぐと、中波ラジオ放送局が強くかぶってくる。
アンテナ(LW)のインピーダンスが、50Ωとかけ離れているためと思われる。

そのため、実際に灯台放送を聞きながら、了解度が良くなるよう調整する。
ノイズの少ない時間帯にヘッドホンを使ってやると良い。
中波ラジオ放送局(特に1400KHz〜1600KHz)の影響を避けながら、了解度が最も上がるポイントを根気強くさがす。
3つのトリマーの最良点は、互いに影響して変化する。
トリマーの回転に対する変化は思ったよりブロードでちょっと難しいが、目的信号がノイズから浮き上がってクリアーに聞こえるポイントがある。

ソース抵抗の10Ωは、ゲイン調整とドレイン電流を測るため入れた。
2SK439はほぼフルパワーで動作しているが、ゲインが高過ぎて発振するようなら、100Ω〜1KΩの間で調整する。




受信機は、おじさん工房のソフトウェアラジオSDR-1
AVRによるデジタル信号処理で、電源、アンテナ、スピーカーをつなげはラジオ放送が受信できる。
全部品、基板付きのキットとして頒布されている。詳しくはおじさん工房へ。
写真のうち、プラスチックケースと青色LCDは、別途秋月で購入したもの。


5 評価
定量的なデータは提示できないが、受信機だけでは聞こえない多くの灯台放送局が、このプリセレクターをつなぐことによって受信できる。
特に以前に使っていた別のプリセレクターではまったく聞こえなかった「みやこじま」が、時間帯によってはかすかに聞こえるようになった。
一定の効果があるものと思われる。




6 終わりに
灯台放送を受信していて不思議なのは、必ずしも遠い局が弱く、近い局が強いわけでもないことだ。
同じような送信設備で放送しているはずだが、電離層の状態や伝播経路の違いによるものだろうか。
当地愛媛県で全29局中最も強力なのは、新潟県の粟島であり、その強さには驚かされる。
50WのQRPでよく飛んでくるものだと感心する。

灯台放送は、ほとんどの人がその存在さえも知らないマニアックな世界だ。
本機のような付加装置を製作する意味を理解してくれる人は少ないだろうが、手を掛ければ掛けるほど成果が表れてくる面白さがある。
灯台放送は昔のラジオ少年の楽しみを思い出させてくれる貴重なテーマだ。


7 番外編−受信証
灯台放送局は受信レポートを送ると、受信証を返してくれる。
返信用として80円切手を同封すること。







8 追記
備忘録がわりに作ったページでしたが、しばらく見ないうちにたくさんの方に見ていただいたようで、ありがとうございます。
気が付いたことを追記します。

アンテナ関係の本を読むと、LWのインピーダンスは、1kΩくらいだということです。
受信用にインピーダンス比9:1のバランを挿入している例を見ましたので、FB804-43にトリファイラ巻7回のバランを作り、プリセレクターとアンテナの間に入れてみました。
Sは上がりますが、了解度は全然上がりません。というか、ノイズばかり増えてかえって悪くなりました。
インピーダンス・マッチングの問題より、LWそのものの問題が大きいようです。
中波受信用には磁界系のループアンテナがいいという話を聞きましたので、いずれ試してみたいと思っています。

冬本番となり、私のマンションでもエアコンを使う家が増えてきました。
ベランダアンテナにとって、一番のノイズ発生源はエアコンです。
特に受信機のSDR-1にはノイズブランカーがないので、影響をもろに受けてしまいます。
今は灯台放送を聞くにはあまりいい環境ではありません。

(2012.12.25)


9 アンテナバランの製作
前回はインピーダンス比9:1のバランを入れてうまくいかなかったことを書きました。
この時は、バランを同軸ケーブルとブリセレクターの間に入れていました。
良く考えると、いや考えなくても、バランはアンテナと同軸ケーブルの間(給電点)に入れないとインピーダンス不整合になります。
うまくいかなくて当たり前のように思えてきました。

そこで、次のようなアンテナバランを考えました。
L1のフロートバランは、接地抵抗の影響を軽減させることができます。
詳しくはトロ活新版のP364を参照してください。

L2は、巻線比1:3のトリファイラ巻のトランスで、ロングワイヤーの高いインピーダンスを1:9の比率で変換するものです。
同軸ケーブルの50Ωに近いインピーダンスに落としてマッチングを図ります。


L1は200μH、L2は30μHくらいのインダクタンスを見込んでいます。
中波帯までカバーするためには、大きなインダクタンスが必要です。


トランスは、BN43-202というメガネ型のコアに巻きました。
このコアはAL値が2200もあり、少ない巻き数で大きなインダクタンスが得られます。
Kits and Parts dot Comで10個5ドルでした。
FT50-43に巻くなら、L1は23回、L2は9回です。
そのうちもう少し大きなコアに巻いて送信用にも使いたいと思っています。
そういえば最近すっかり電波を出していません。


水道管の継手として売られているTS-C40という塩ビパイプに組み込みました。
内径50mmで使いやすい大きさです。
4mm×20mmのステンレスビスでアンテナ端子とアース端子を出します。
ご覧の通りの空中配線で心もとありませんが、何とか空中にとどまっています。
巻線は0.4mmのUEWですが、これより細いと何か別の対策が必要だと思います。


外観です。
この「継手」は、ホームセンターで100円くらいで売っています。
アンテナ用の部品として便利です。
アース端子はベランダの金属部分につないで接地します。


厚さ10mm程のゴム板でフタをします。
このゴム板もホームセンターで見つけたものです。
継手とは全く別のメーカーの製品ですが、あつらえたようにぴったりとハマります。

使用感です。
これまで同軸ケーブルを直接ロングワイヤーにつないでいましたが、このバランを使うと大きな変化がありました。
まず目的信号が格段に強くなりました。
インピーダンス不整合によって給電点でロスしていた信号が、効率よく同軸ケーブルに伝えられ、受信機まで届くようになったと思われます。
フロートバランが効いているのか、ノイズも少なくなったような気がします。
了解度の違いはありますが、あの弱い「みやこじま」も含めてほぼ全国の灯台放送が連続して受信できるようになりました。
ロングワイヤーをお使いの方は一度試してみてはいかがでしょうか。

なお、このバランを入れるとプリセレクターの再調整が必要です。
調整はポイントを外すと中波放送が強くかぶってきます。根気強くやります。

(2013.1.28)


10 灯台放送局全局受信まであと一歩
アンテナバランを入れてから、格段に受信しやすくなりました。
了解度はRS59〜21までさまざまですが、以前の「みやこじま」のように、何度聞いても全然聞こえない局はなくなりました。
こうなると目標は29局全局受信です。

局名は確認できても、放送内容を完全にコピーするのは意外と難しいものです。
これまでに受信証をCFMしている13局を除いて、2月1日〜9日にかけて10局を受信、各海上保安部へレポートを出しました。
たぶん最後まで残ると思っていた「みやこじま」は、思いがけずスポット的に受信できました。
残りは、「いぬぼう」「とどがさき」「かみつしま」「大阪ハーバーレーダー」「とい」「やぎしり」の6局となりました。

2月10日、この日は比較的ノイズが少なく、「いぬぼう」「とどがさき」「かみつしま」「大阪ハーバーレーダー」が受信できました。

2月18日「とい」が受信でき、残りは「やぎしり」だけになりました。
「やぎしり」はRS21〜31で、局名は確認できるのですが、放送内容がコピーできません。
これまでに何度も聞こえているので、コンディションの良い時をねらってチャレンジしたいと思います。


「みやこじま」の受信証が届きました。
プリセレクターやアンテナバランがなかったら、絶対に受信不可能でした。

石垣海上保安部は、現在、尖閣諸島の警備という重大な任務を果たしています。
ご苦労様です。

(2013.2.19)


11 ノイズフィルタを挿入
以前からガサガサというノイズが気になっていました。
アンテナを外しても聞こえますので、プリセレクターが拾っている(あるいはプリセレクターから発生している?)ノイズのようです。
秋月で売っているノイズ対策部品/EMIフィルタを入れてみました。
BNX016-01という製品で、機器の直流電源の入口に入れます。

写真の下側が入力側、上が出力側です。
出力側のGNDはスズメッキ線で基板のアースに落とします。


村田製作所のデータシートによると、100KHz〜1GHzの間で40dB以上ノイズが抑えられるとのことです。
多少聞きやすくなったような気がしますが、劇的な効果はありませんでした。
どうやらガサガサは別の理由によるもののようです。

(2013.9.16)


12 灯台放送専用受信機の製作

自作の受信機で灯台放送を受信したいと思いました。
KX1を参考にIF増幅なしの受信機を考えました。
IF増幅なしでも受信できるのは、SA612に変換ゲインがあるためです。
内部雑音の少ないシンプルな受信機ができそうです。

まず、最初のSA612で周波数変換を行います。
1669KHzの灯台放送とDDSVFOからの3246.2KHzを混合して4915.2KHzへ持ち上げます。
4915.2KHzのクリスタルがたくさんありましたので、ラダーフィルタを組みました。
帯域幅は2.7KHzで設計しています。

もう一つのSA612で検波し、2SC1815のLPF、2SC1815のAF増幅を経てNJM386でスピーカーを鳴らします。


主要な部品とプリント基板です。
アンテナコイルはT108-2にバイファイラ巻で25回巻き、中点をつないで電気的には50回巻です。
巻数が多いときは、バイファイラ巻は良い方法です。
実際に巻く回数が半分になり、線長も半分になって巻きやすくなります。
3個のICは小さなドーター基板の上にはんだ付けしてモジュール化しています。
回路図がなくても組み立てはできますが、後で何が何だかわからなくなります。
スケッチのような回路図でも残しておくと役に立ちます。


組み立てが完了したところ。3時間くらいかかりました。
大きな基板にゆったりと組んだら、ウナギの寝床のように細長くなりました。
右端の基板は貴田電子のDDSVFOです。
LEDランプは少しまぶし過ぎるので、横に寝かしています。


受信部を拡大したところ。
クリスタルフィルタのクリスタルは5個使いました。
数を増やせばキレは良くなりますが、この程度の受信機ではこれで十分です。
SA612の電源電圧は回路図では5Vになっていますが、8Vにしました。
少しでもゲインを稼ぐためです。
LPFは、サイテックのダイレクトコンバージョン受信機Comet40に採用されている、サレンキ−・タイプのAFロ−パスフィルタ−です。
簡単な回路ですが、高域がカットされて聞きやすくなります。


VFOは貴田電子のDDSVFOを使いました。
メモリー0に灯台放送を設定すれば、スイッチを入れるとその周波数で発振します。
灯台放送専用ですから、他の周波数は受信しません。
したがってロータリーエンコーダーは使いません。
3246.250KHzを発振させて、表示が1669.000KHzになるように設定しています。

実際に灯台放送を受信してみました。
プリセレクターと併用して10局くらい受信できます。
やはりゲインが足りないなという印象です。
受信できる局も音が小さく、AFボリュームを最大にしてもよく聞き取れません。
IF増幅の追加を考えていますが、IF増幅を付けるとAGCも欲しくなり、結局フツーの受信機になってしまいます。
ちょっと思案のしどころです。

(2013.9.23)



クリスタルフィルターの後ろに、2SK439のIFアンプを1段入れました。
トランスは、T50-2にバイファイラ巻で19回。中点をドレインに接続しました。
ソース抵抗は330Ωです。これ以上小さくすると見事に発振します。

少しノイズっぽくなりましたが、了解度は向上しました。
しばらくこれで様子を見ます。

(2013.9.25)


中華DDSモジュールを使った発振器の実験をしました。
別ページにまとめましたのでご覧ください。



(2013.10.25)


参考文献

トロイダル・コア活用百科 山村英穂 CQ出版社
トロイダル・コアで自作するFCZコイル 加藤高広 CQham radio2012年3月号P102


参考Web Page

BCL船舶気象通報(残念ながらリンク切れ→リンク復活!→再びリンク切れ) http://www.kncn.net/BCL/lighthouse.html

灯台放送タイムテーブル http://iyo.ojaru.jp/toudai-timetable.html

灯台放送ファン http://www.toudairadio.net/?page_id=22



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